『めっきなんて、液に浸けるだけなんだから形状は関係ないでしょ?』
『ちょっとした形状があるだけでめっきできないってどういうこと?』
などと思われているかもしれません。
今回のコラムではめっきメーカーからの視点で、『なぜめっきが付かないのか』を解説したいと思います。
『めっきが付かない』の言葉の意味は? 3つの真意
冒頭の『この形状にはめっきが付かないと思います・・・』の言葉には、状況によっていくつかの意味があります。
ⅰ)形状的な問題で全くめっきが付かない場合(めっき未析出)
ⅱ)めっきは付くが望ましい外観が得られない場合(外観不良)
ⅲ)めっきは付くが膜厚等の性能を満足できない場合(性能未達)
ⅰ)めっき未析出
形状的な問題で全くめっきが付かない(析出しない)という事も起こり得ます。
めっきは、めっき液に浸けて行いますが、なんらかの理由で製品がめっき液に触れていない場合はめっきが付きません。
めっき液に浸けているのに液に触れない事なんて起こるの?と思われるかもしれませんが実際に発生します。
答えは簡単で空気が原因です。
コップを逆さまして水の中に入れた時と同じような状態です。
つまり、製品形状の凹凸部分に空気が溜まり、めっき液に触れることが出来ない状態になってしまって、めっきが付かなくなるという仕組みです。
この場合、製品をめっき液に浸ける時の角度を工夫することで改善できることもあります。
ⅱ)外観不良
めっきは付くが望ましい外観が得られないというのも、実はよくある話です。
通常の樹脂めっき品(プラスチックにめっきした製品)の場合、めっき皮膜は、銅、ニッケル、クロムの3層構造になっています。
このうちの銅とニッケルはめっきが付きやすいので良いのですが、クロムは銅やニッケルに比べてめっきが付きにくい性質を持っています。
そのため、銅やニッケルは付いているが、クロムだけ付かないという事象が発生します。
このような付きやすい・付きにくいという事を、『めっきのつきまわり』が良い・悪いという言い方もします。
銅やニッケルめっきに比べてクロムめっきはつきまわりが悪いといった言い方をします。
クロムめっきがつきまわっていないと、クロムめっきの下の層であるニッケルめっきが露出してしまい、少し黄色がかった(良く言うとシャンパンゴールドの様な)色になります。
これでは、外観上も性能上も問題有りとなってしまいます。
また、最近は黒色系のめっきが流行っていますが、黒色系のクロムめっきは、従来からあるシルバー系のクロムめっきよりも、よりめっきがつきまわりにくい傾向にあるのでさらに注意が必要です。
ⅲ)性能未達
めっきは付いているが膜厚の規格をクリアできていないというのもよくある話です。
見た目ではまったく分からないのに、膜厚を測ってみると既定の厚みに達していない場合です。
めっきの膜厚が不足していると、耐久性能にも悪影響を及ぼす場合があります。
と、ここまで色々と述べてきましたが、ではなぜこのようなことが起こるのでしょう?
その辺りについて解説します。
めっきが製品形状の影響を受けるワケ
図は、電気めっきの仕組みのイメージです。
自動車部品やパチンコ・パチスロ部品、日用品などで見かけるめっき品の多くは電気めっきという工法を用いています。
電気めっきとはその名の通り、電気を流すことで電子や金属イオンのやり取りを行い製品にめっきを付けていきます。
ここで重要なのは電気を使ってめっきを付けるという事です。
アノードと呼ばれる金属の供給源から製品まで、金属イオンは電気的な作用によって進んでいきます。この時、金属イオンは、到着しやすい所に集中的に供給され、逆に到着しにくい所にはあまり供給されません。
そのため図のような凹形状の内側にはめっきが付きにくくなり、凸形状の部分には過剰にめっきが付いてしまいます。
めっきにとっての得意な形状・苦手な形状まとめ
これまで、色々と述べてきましたが、めっきと形状の関係についてまとめると次のようになります。
① 凹形状が大の苦手
→ 凹の奥まで電気が届きにくい為、めっきが付きにくい
② 凸形状にはめっきが付きすぎてしまう
→ 凸の出っ張った箇所に電気が集中し、めっきが付きすぎてしまう
③ 凸形状のふもとはめっきが付きにくい
→ 凸のてっぺんの部分に電気を取られてしまってフモトまで電気が届きにくい
④ 製品の中央部分はめっきが薄く、端の部分はめっきが厚くなる
→ 端の部分は電気がたくさん集まってくるが、中央部分は電気が分散する
このようなめっきの付きやすさ、付きにくさを、我々は『めっきのつきまわり性』と表現しています。
きちんと全面にめっきが付いている場合は『めっきがつきまわっている』、きちんと付いていない場合は『めっきがつきまわっていない』などと使っています。
進化するめっきのつきまわり確認法
めっきのつきまわりに関して、従来は経験にもとづく予測と勘で想定するしかありませんでした。しかし、技術の進歩は素晴らしく、現在ではシミュレーションソフトを利用することが可能です。
このシミュレーションソフトは、コンピュータ上に再現された当社のめっきラインに、製品の3Dデータとめっき条件を入力することで、製品の膜厚分布がどのようになるか、実製品が無い状態で確認することが出来るという優れものです。
これにより、デザイン検討段階でも、めっきがつきまわる形状かどうかを分かりやすい形で判断することが出来るようになりました。
さいごに
当社は、複雑な形状の自動車部品や水栓金具、農機具・建設機械部品、パチンコ・パチスロ部品などの樹脂めっき品の生産を数多く行ってきたノウハウがあります。
そのため、めっきのつきまわりに関する問題の解決策を様々な角度からご提案可能です。
何か気になる点がございましたらお気軽にお問い合わせください。
最後に、あれ?電気めっきをするって言っているけれど、そういえばプラスチックに電気って流れるの?と疑問に思った方がいらっしゃいましたら、下記コラムをご確認ください。どうやってプラスチックに電気めっきが出来るかを簡単に解説しております。