身の回りの“樹脂めっき”
“めっき”といえば、金属を錆びさせない”亜鉛めっき”、装飾品の”金めっき”が有名ですが、今回説明する”樹脂めっき”です。文字通り、樹脂(プラスチック)上に金属のめっき皮膜を生成し、見た目を金属化してしまうという特殊なめっき手法です。
1962年にアメリカで発明され、自動車・家電・農機具・建設機械・水洗金具など日常の至る所に広く使われています。
樹脂(プラスチック)と金属という異素材では、すぐに剥がれてしまうというイメージがあるかもしれません。しかし、”樹脂めっき”は剥がれません!樹脂(プラスチック)と金属膜は強固に結合しているからなんです。その理由を”樹脂めっき”のプロフェッショナルがご紹介します。
樹脂(プラスチック)と金属が強度に結合?
亜鉛めっきや金めっきなど金属へのめっきは化学的密着(金属同士の金属結合)です。しかし、樹脂(プラスチック)と金属は通常化学的に密着しません。
では本来密着するはずのない樹脂と金属がなぜ密着するのでしょうか?
ズバリ、樹脂とめっき(金属)が密着する主な理由はアンカー効果による物理的結合によるものです‼
アンカー効果とは?
“アンカー”とは、船を水上に停めるための錨(いかり)の事
前述で触れたアンカー効果ですが、ファスナー効果とか投錨効果とも呼ばれます。
表面の微細な凹凸の奥にめっきが入り込むことで、かえしのある矢を打ち込んだように抜けなくなります。これにより密着します。
そのアンカー効果のイメージを図で表すとこのようになります。詳細は後述します。
そのアンカー効果がどのようにできるかを説明するため、樹脂めっきの工程についてご説明しましょう。
樹脂表面の凹凸に入り込んだめっき皮膜が、アンカー効果(投錨効果)を出し、樹脂とめっき皮膜との密着性を上げます。
(参考)金属めっきが密着する理由
通常の金属めっき(例 鉄への亜鉛めっき 鉄へのニッケルめっきなど)は金属結合で密着します。金属結合とは、「金属元素と金属元素」の間の結合のことです。
樹脂めっきの仕組み
ここではABS樹脂への樹脂めっきの仕組みについて解説します。
①脱脂、洗浄
製品表面の汚れを取り、後工程に持ち込まないようにします。
また、製品表面の濡れ性を上げエッチング(次述)がしっかり効くようにします。
②エッチング
樹脂の表面をエッチングではクロム酸を用いて行いABS樹脂のB(ブタジエン)成分を選択的に溶かすことにより凹凸を作成します。
③キャタリスト 触媒付与(パラジウムを吸着)
エッチングでできた表面の凹凸にめっきを析出させるためのスズとパラジウムのコロイドを付与します。
④アクセレーター
触媒活性化(パラジウムを析出)
スズを溶かすことによりパラジウムだけを残すことができます。
⑤無電解めっき
ニッケルイオンがパラジウムの触媒効果により次亜リン酸ナトリウムと化学反応することにより金属ニッケルになります。
Ni²⁺+2H₂PO₂⁻+2OH⁻→Ni+2H₂PO₃⁻+H₂
表面に薄いニッケル層ができることにより電気を通すことが可能になります。
通電ができれば電気めっきをすることが可能になります。
⑥電気めっき
柿原工業の樹脂めっきでは[1]銅めっき、[2]ニッケルめっき、[3]クロムめっきと3種類のめっき皮膜を付けます。
それぞれのめっきには特徴があり効果があります。
それぞれのめっきの特徴
[1]銅めっき
- レベリング効果(樹脂表面の細かい傷を消し、表面の平滑度を上げる)
- 緩衝効果(樹脂と金属ニッケル皮膜との熱膨張収縮差を緩和させる)
[2]ニッケルめっき
- 耐食性を上げる(銅めっきを錆びさせないようにする)
- 光沢をだして外観をよくする。
[3]クロムめっき
- 装飾めっきの最上層に施され、金属光沢を有する。
- 酸化被膜を作り耐食性を上げる。
アンカー効果について(まとめ)
樹脂とめっき皮膜が密着する一番のカギとなるのは、エッチング工程です。
前述した通り、エッチングは樹脂表面のブタジエン成分だけを選択的に溶かして表面に凹凸を形成します
この凹凸にめっきが入り込んで生成されることにより、樹脂とめっきが結合します。
このことをアンカー効果と呼びます。
柿原工業では長年の実績からABS PC+ABSに最適な条件でエッチング工程を管理しています。
番外編:樹脂とめっき(金属)がはがれる
これまでの説明で樹脂とめっきが密着する理由はアンカー効果とご説明しました。
しかし、エッチング工程の条件を間違えるとこのアンカー効果が発揮できず、樹脂とめっきが密着せずはがれてしまう事になります。
アンダーエッチング
エッチング処理が弱い場合、凹凸が浅くて密着(アンカー効果)が薄い場合があります。
オーバーエッチング
エッチング処理が強すぎる場合、表面を荒らしすぎて密着(アンカー効果)が薄い場合があります。
柿原工業のはがれない樹脂めっき
特に生産量の多い自動車部品のインサイドハンドル/アウトサイドハンドルにおいては、頻繁に手で触れる部品のため、めっきが剥がれると手を切るなどのケガの原因になります。
このため、高い密着性が要求されますが、柿原工業の樹脂めっきはこれをクリアしています。
ハンドル以外にも外装部品(フロントグリル、サイドミラーカバーなど)や内装部品(ステアリングベゼル、スピーカーリング等)を多く生産しています。
自動車部品以外にも普段から手で触る水洗金具や過酷な環境で使用する農機具などでも多くの実績があります。
品質(密着)に実績があり、多くのカラーバリエーションを持つ柿原工業の樹脂めっきをぜひ検討してみてください。