はじめに
便利になる我々の生活環境において益々センサーの需要が高まっている一方、めっき等の金属膜とセンサーの共存には多くの課題があります。どうすれば金属外観とセンサーを共存させることができるでしょうか。
我々の日常生活には、ドアや家電製品の接触式スイッチ、自動車の衝突安全回避のためのミリ波レーダーなど、多くのセンサーが溢れています。
これらのセンサーは通常、加飾パネルなどの裏側に設置され、そのパネル越しに感知を行います。しかし、センサーは金属膜が存在するとその機能が阻害され、正常に動作しなくなることがあります。
一方で、センサーが組み込まれた製品は一般的に高価であり、その外観にも高級感が求められるため、クロムめっきなどの装飾への需要も根強く存在します。
そこで柿原工業では、センサーや電波を有効に使用しながら、金属クロム調の外観を実現する「クロムPVD」を開発しました。
これから、この加飾技術についてご紹介いたします。

柿原工業 クロムPVDの仕組み
PVDとは、「物理気相成長法」と呼ばれる物理的な成膜技術のことです。高い真空条件下で成膜させたい物質を蒸発・飛散させ、対象物の表面に薄膜を形成します。
当社では成膜させる金属として、装飾クロムめっきと同様の外観を持つ「クロム」を使用しており、その膜は3層構造で成り立っています。
①特殊コート膜(アンダーコート)
②クロムPVD膜
③トップコート膜
この3層構造の中でも、当社クロムPVDの最大の特徴は ①アンダーコート膜 にあります。
当社では特殊なアンダーコート膜を採用しており、これを熱処理することで表面に微細なクラックが発生します。
このクラックにより、クロムPVD膜も追従して割れが生じ、「連続した膜」ではなく「断続的な不連続膜」が形成されます。
この不連続な膜構造により、当社のクロムPVDは以下のような特徴を実現しています。

柿原工業 クロムPVDの特徴 ①光・電波透過性 ②絶縁性
①金属外観と光・電波透過性の両立
プラスチックに金属調の外観を付与しつつ、光や電波の透過性を確保する方法としては、当社のクロムPVDと、もう一つの手法であるインジウム蒸着が挙げられます。
一般的な金属膜では、光や電波は膜によって反射されるため透過することができません。
しかし、当社のクロムPVDやインジウム蒸着で形成される金属膜には微細な隙間が存在し、その隙間を通して光や電波が透過可能となります。
ただし、インジウム蒸着には以下の課題があります:
・金属調外観は得られるものの、一般的に使用されるクロム色とは異なる色調となること
・インジウム自体が高価な金属であること
一方、当社のクロムPVDは、安価で入手性の高いクロムを材料とし、外観においても金属クロムそのものの色調を忠実に表現できます。
すなわち、このクロムPVDこそが、「クロムめっき調の外観」と「光・電波透過性」を両立させた、柿原独自の加飾技術です。



②金属外観と絶縁性の両立
私たちの日常生活で頻繁に使われているタッチセンサーのうち、静電容量の変化を検知する仕組みのものを「静電容量センサー」と呼びます。これは電界を利用しており、電気を通す物質(導体)がセンサーの受容体となります。
導体の代表例は金属ですが、その逆に電気を通しにくい性質を「絶縁性」といい、その性質を持つ物質は「絶縁体」と呼ばれます。
例えば、タッチセンサーとして“指定した部分”のみが反応するように設計する場合、その範囲の裏側にだけ静電容量センサーを配置します。しかし、一般的な樹脂めっき品を使用する場合、めっき膜は連続した金属膜となるため、“指定した部分以外”に触れてもセンサーが反応してしまいます。
これに対し、当社のクロムPVDは「断絶した不連続膜」のため、“指定した部分”を触れた際は膜が導体としてセンサーが反応しますが、それ以外の部分では金属膜が断絶されているためセンサーは反応しません。
この特性により、当社のクロムPVDは「クロムめっき調の外観」と「絶縁性」の両立を実現しています。

想定される使用事例
当社のクロムPVDの特徴を活かし、以下のような用途での使用が想定されます。
■スマートアクセス(タッチセンサー)ドアハンドル
意図的に操作して開錠・施錠を行いたいドアハンドル向けに当社のクロムPVDを用いることで、ドアハンドルに埋め込まれた静電容量センサー部に触れた場合のみ、スマートキーと連動して開錠・施錠を行うことが可能になります。
■ミリ波レーダー対応エンブレム
前方衝突回避のため自動車前方エンブレム付近に搭載されているミリ波レーダーですが、一般的な樹脂めっきエンブレムではミリ波が金属膜に反射され、レーダー機能が阻害されてしまいます。当社のクロムPVDを使用することで、ミリ波がエンブレムを透過し、レーダー機能を正常に動作させることが可能です。
■タッチパネル
当社のクロムPVDが持つ光透過性を活かし、金属外観を有するタッチパネルに表示を透過させることが出来ます。また絶縁性により、パネルを触って操作することも出来ます。









